往来手形②
2024年5月7日
その他

前回に引き続き、往来手形を読んでいきます。

前回の続きからです。「依之(これにより)国々御関所無相違(そういなく)御通可被下候(くださるべくそうろう)」と書いてあります。
①「依之」
レ点をつけて返って読みます。意味はそのまま「これによって」となります。よく出てきます。
②闕字(けつじ)
「国々」と「御関所」の間に1文字くらいの空欄があります。これは前々回のスタッフブログで解説した「闕字」です。相手に対して敬意を示すため1、2文字くらいの空欄を空けます。ここでは「御関所」に対して敬意を示しています。「御」とついていることからも、敬意の対象であることがわかりやすいと思います。
③「無相違」
一二点をつけて読みます。「無」という字は下の四つの点「れっか」がなくなっています。よく出てくるくずし方です。また、「相違」もよく出てきます。特に「相」は「相成(あいなり)」など「相○○」となることが多いです。
④「可被下候(くださるべくそうろう)」
「可(レ)被(レ)下候」とレ点をつけて読みます。尊敬を表します。
意味としては、前文までの「りせという人は拙寺(開善寺)の檀那に間違いない」という内容を受け、「これにより、国々の御関所は間違いなく(りせを)お通しください。」といった意味になります。

次の文です。「途中ニ而(にて)行暮候節者(そうろうせつは)宿々村々一宿上頼候(たのみあげそうろう)」と書いてあります。
①「ニ而」
「ニ而」はよく出てくる言葉で、意味もそのまま「にて」などです。「ニ」は小さく書いてあります。見落とさないように注意してください。
②「者」
「候節者(そうろうせつは)」の「者」は助詞の「は」を表します。この助詞の「者」もよく出てきます。同じ「者」でも前から3行目の「りせ与申者(ともうすもの)」のように「もの」となる場合もあるので注意です。
③「上頼」
レ点をつけて「たのみあげ」となります。「頼上」と書かれることの方が多いように思います。
全体の意味としては「途中で行き暮れた時は、宿場や村の方々は一宿泊めていただきますようお願いします。」といった意味になります。

次の文です。「万一何国ニ而病死等仕ハヽ(つかまつらわば)其所之(そのところの)御作法ニて御取置可被成下候(なしくださるべくそうろう)其節(そのせつ)国元江(くにもとえ)及御届ニ不申候(おとどけにおよびもうさずそうろう)」と書いてあります。
①「等」
「病死等」とありますが、「等」はこれよりももっとくずされてカタカナの「ホ」みたいになることが多いです。
②「仕ハヽ」
「仕ハヽ」とここではしましたが、「ハヽ」のあたりがなんとなく違うような気がしています。こうじゃないかというご意見ありましたらぜひお願いします。
③「其所之(そのところの)」
「其」はよく出てくるくずし方です。「所之」の「之」は助詞の「の」です。「有之(これあり)」のように「これ」と読む場合もありますが、助詞にもなります。繰り返しの「々」などとくずし方が少し似ているので注意です。
④「御取置」
「取」「置」もそれぞれよく出てきます。「置」の方は「直」のあたりがごちゃごちゃしたくずし方になっていますが、よく出てきます。「取置」には「始末する事」といった意味の他に「埋葬する」という意味もあります。ここでは「埋葬する」の意味で使っているかなと思います。
⑤「可被成下候(なしくださるべくそうろう)」
敬意を表します。返り点をつけてみると「可(レ)被(二)成下(一)候」です。意味は「~ください」くらいで訳してもいいかと思いますが、「くださいますようお願い申し上げます。」くらい丁寧でもいいと思います。
⑥「江」
「江」は助詞の「へ」です。これも横に小さく書かれています。見落とさないようにしてください。
⑦「及御届ニ不申候」
「おとどけにおよびもうさずそうろう」と読みます。「不」はひらがなの「ふ」に似ているかと思いますが、現在私たちが使う「ふ」の字母はこの「不」です。
全体の意味としては「万が一どこかの国で病死などしたならば、その地のやり方で埋葬してください。その際には国元への届(死去の知らせ)には及びません。」といった意味になります。

最後の文は決まり文句です。「為後日」は「ごじつのため」で、意味も「後日のため」といった意味です。そして「仍而如件」は「よってくだんのごとし」と読みます。これも証文などの最後に書く決まり文句で、「この通りです(前文まで書いてきた通りです)。」といった意味です。書状だと最後に書く決まり文句は「恐惶謹言」が多いです。
それでは、前回の分も含めて全体の内容を考えていきます。
まず、この往来手形は信州松代(現長野市)の「開善寺」が、「国々御関所御役人衆中村々宿々御役人中」宛てで発行しています。発行した年月日は天保14年(1843)年10月です。
内容としては、最初に、信州松代の西條村に住む甚左衛門の妻りせという人が「諸国神社仏閣参詣」のため、この往来手形を発行するということを示しています。そして、りせの宗旨は真言宗で開善寺の檀那で間違いないと、りせの身元を証明しています。よって、「国々御関所」に対し、りせを間違いなく通してくれるようお願いしています。また、途中で行き暮れた場合は、宿場や村は一宿恵んでもらうようお願いしています。そして、どこかで病死などした場合は、その地のやり方で埋葬すること、国元へは死去したと知らせなくてもよいとしています。
まとめると、内容は
①りせの身元証明
②関所通過のお願い
③行き暮れた場合の一宿のお願い
④病死などした場合の取り扱いのお願い
となっています。往来手形は身元証明のみならず、旅行中何かあった場合の対処のお願いもしていたということがわかります。往来手形はどれもおおむねこのような内容です。往来手形を持っていることで、身元がはっきりとわかり、万が一何かあった場合も宿場や村の人も助けてくれやすくなります。往来手形を持っていなければ絶対に助けてもらえないということではありませんが、往来手形を持つことで人の助けが得られやすくなり、安心して旅ができたのではないかと思います。
ちなみに、亡くなっても故郷へは知らせなくてよいというと何だか冷たく感じますが、実際には知らせている場合もあります。
以上、往来手形についてでした。お読みいただきありがとうございました。