西国道中絵図
2024年7月22日
企画展の見どころ
9月1日まで特別展示室にて「収蔵品に見る熊野古道伊勢路」を開催しています。今回は、「西国道中絵図」をご紹介したいと思います。
「西国道中絵図」はその名の通り、西国巡礼を案内する絵図です。西国巡礼の道筋は黒や赤で塗られ、一目でわかります。注目すべき点は「いせ山田」(伊勢)が出発点であることです。西国巡礼の旅の始まりが伊勢であったということがよくわかります。関東や東北地方の人々は伊勢参宮の後、田丸で巡礼装束に着替えて熊野古道伊勢路を歩き、西国巡礼をしました。そうした人々のニーズに応えた絵図といえます。
今回展示しているのは2点の西国道中絵図です。ぱっと見でわかるように、デザインが異なります。海が黒く塗られている方が「紀州かなご屋善兵衛」版、波がうねうねと描かれている方が近江の「表具屋善兵衛」版です。「紀州かなご屋善兵衛」版の方が、陸地と海がはっきりしていて見やすいかもしれません。しかし、情報量は「表具屋善兵衛」版の方が多いです。特に熊野古道伊勢路の部分は、「紀州かなご屋善兵衛」版が地名と距離のみであるのに比べ、「表具屋善兵衛」版は峠や川(舟渡しなど)の説明が記されています。おそらくスペースの関係で野尻(大紀町滝原)から大泊(熊野市)までとなっていますが、詳細な説明が細かい文字でびっしり書いてあります。
のじり 此間ニセきが原太神宮有(瀧原宮のこと)
あそ 川有、大水ニハ左り廻る
かしわの 川二ツ有、大水ニハ左へまハる
さき 川有、大水ニハ右へまハる
こま 川有、大水ニハ左りへまハる
まゆミ 大つ村、次ニ宮のまへ小川、梅が谷
ながしま にさかとうげ、勢州紀州国さかい、次ニにかう村、川あり
ミうら 此所町屋也、せい天ニハ木のもと迄十六り海路舟ニのる、はちかミさか有
むませ 間ニ川三ツ有、右へ少まハれハ一せわたる、大水ニハ舟わたし
このもと
おわせ 此間ニ川二ツ有、大ミづにハ舟わたし
八き山 上り五十丁なん所なり
ミき 是ゟそねまて内うミ一り舟渡し、まハれバなん所なり
にきしま 川有、次ニ大かめさかあり
あたしか 坂有、めいぼくの松あり
はたす 此間ニさかあり
大とまり 此間ニ川あり
よく読んでみると「川有、大水ニハ左りへまハる」など、川があることと川の水が多い場合の回り道の情報が多く記されていることがわかります。また、「おわせ(尾鷲)」と「ミき(三木里)」の間には「八き山(八鬼山)」と書かれています。熊野古道伊勢路の数ある峠の中でも、このように地名と並んで書かれているのは八鬼山のみです。八鬼山は大変な難所で、よく名の知られた場所だったと思われます。
西国道中絵図には、こういった文字情報以外にも様々なイラストが描かれています。小さいですがお城やお寺のイラストがおすすめです。特に「表具屋善兵衛」版の方は意外と細かく描かれています。ぜひ実物を見てみてください。
以上、西国道中絵図についてでした。お読みいただきありがとうございました。
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