水谷豊文

2025年6月3日

企画展の見どころ

 尾張藩士で、尾張の本草学者グループ「嘗百社」の中心だった水谷豊文は、しばしば採薬の旅に出ており、東紀州地域にも来ています。今回の企画展では、東紀州地域に水谷豊文が採薬に来た際の記録である「熊野採薬記」(国立国会図書館蔵)の複製を展示しています。

カナツキ

 水谷豊文『熊野採薬記』,写. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2537483 (参照 2025-06-03)

 植物以外のイラストが豊富で、当時の習俗がよくわかる資料です。中でも、興味を持たれた方が多いのは「カナツキ」のページです。魚を突いてとるための道具だろうということは、見た目でなんとなく想像できます。この「カナツキ」は現在の尾鷲市賀田町で見たものを絵に描いたものです。「舩ニテタコノヲルヲ見テツク」と説明が書いてあります。タコ漁に使っていたようです。賀田町在住の方によると、昔(昭和)も箱メガネで水中をのぞいて、カナツキで魚をとっていたそうです。

 水谷豊文は、雨のため賀田にしばらく滞在した後、熊野古道伊勢路を引き返し、名古屋に帰っています。賀田周辺では多くの植物を採集しており、とった植物のほとんどに、賀田での方言も書かれています。地元の方に協力してもらいながら、植物を採集し、一つ一つ方言を聞いていたのではないかと思います。研究熱心な様子がよくわかります。

 個人的に水谷豊文の資料で好きなのは「豊文禽譜」という資料です。

ツノメドリ

 水谷豊文 [著]『豊文禽譜』,[江戸後期] [写]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2537531 (参照 2025-06-03)
※解題も参照しています。

 これは水谷豊文自筆の図譜とされ、鳥類43種が描かれています。中でも「ツノメドリ」は、江戸時代に記録された唯一のツノメドリだそうです。有名な「エトピリカ」に似ていますが、別の種です。熱田(名古屋市)の海で捕まえたそうですが、ツノメドリは本来もっと北の方に生息しています。はぐれてしまったのかわかりませんが、だいぶ南下してきたところを、水谷豊文たちにつかまってしまったようです。水谷豊文は前から見た図も描いています。また、鳴き声は「グーグー」とのことです。低い声なのでしょうか…?

前からみたらこんな感じだそうです。

以上、水谷豊文についてでした。

お読みいただきありがとうございました。

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