往来手形①

2024年4月28日

その他

 今回は往来手形を読んでいきます。往来手形とは、江戸時代のパスポートのようなものです。これがなければ身分を証明することができず、関所は通れませんでした。一枚で完結するため、学習しやすいと思います。

 まずタイトルです。「往来手形之事」と書いてあります。「往来」あたりはなんとなくわかるかもしれませんね。「往来手形」という言葉を知っていれば、「手形」という字もわかるかもしれません。

 続いて差出と宛先です。宛先は最後に書いてあります。「国々御関所御役人衆中 村々宿々御役人中」とあります。旅先の関所や村・宿場の役人宛てになっています。「御」がつくことで敬意を表しています。この「御」は読みやすいのではと思います。差出は「信州松代 開善寺」とあります。松代は今の長野市で、開善寺は今もあるお寺です。また印があることから、おそらくこの往来手形は控えや写しではなく、実際の往来手形だろうと推測されます。この差出・宛先を読むことで「開善寺」が「国々御関所御役人衆中 村々宿々御役人中」にあててこの往来手形を発行したということがわかります。そしていつ発行したかというと、「天保十四癸卯年十月」とあり、天保14(1843)年10月にこの往来手形を発行したとわかります。年月日には「癸卯(みずのとう)」などと、干支が書かれることが多く、「卯十月」などと、年を書かないことも多くあります。

 次に内容です。まず一行目と二行目の途中までです。「一、信州埴科郡松代真田信濃守領分西條村 甚左衛門同女房りせ与申者(ともうすもの)」と書いてあります。比較的読みやすい文字ですが、「埴科郡」は難しいかと思います。「埴」は左側が「つちへん」です。「つちへん」のくすし字辞典のページを見て、見つけます。「つちへん」がわからなければ「へん」ごとのくずし方が載っているページを見て似たくずし方の「へん」を見て探します。

 「信州埴科郡松代真田信濃守領分」とは今の長野市松代町のことで、当時は真田家が藩主の松代藩です。その松代藩の西條村(にしじょうと読むようです)の甚左衛門の女房「りせ」と書いてあります。「りせ」は「里世」と書いてあります。これは変体仮名といいます。現在私たちが使うひらがなは「あ」であれば「あ」だけですが、江戸時代は様々なひらがながありました。ひらがなは漢字をもとにしてできました。「あ」であれば「安」という漢字からできましたが、他にも「阿」という字もひらがなとして使われていました。「りせ」の「里」も「り」の変体仮名です。「世」は現在使っている「せ」のもとになった漢字です。よってここでは「りせ」とひらがなで表記しました。

 また、助詞の「と」という字は「」という漢字を使っています。この「与」という字は助詞で使われる漢字で、もし翻刻(くずし字を解読して活字化すること)する場合は他の文字よりも小さく書くことが多いです。他にも「者(は)」や「茂(も)」、「江(え、「へ」のこと)」などの助詞が慣用的に小さく表示しています。

 続きを読んでいきます。「此度(このたび)諸国神社仏閣参詣ニ罷出申候所(まかりいでもうしそうろうところ)」と書いてあります。りせはこの度「諸国神社仏閣」に参詣するところ・・・という意味です。「此度」はよく出てきます。この言葉ごと覚えてください。また「罷出」という言葉もよく出てきます。どちらもわかりにくいくずし方ですが、「出」の方は最後に点がくるくずし方はよく出てきます。「参詣ニ」の「ニ」はかなり小さくてわかりにくいですが、「ニ」と書いてあります。また、「候」もよく出るくずし方です。英語の「M」によく似てますね。「所」もよく出てきます。ぜひ覚えてみてください。

 次に「宗旨之儀者(しゅうしのぎは)代々真言宗ニ而(にて)拙寺檀那紛無御座候(せつじだんなにまぎれなくござそうろう)」とあります。「宗旨のことは代々真言宗で、拙寺檀那に間違いないです」という意味です。ここで助詞の「(は)」が出てきました。特に下の「日」が原型がなくなっているようなくずし方ですが、よく出てきます。「ニ而」は「にて」と読みます。あまり馴染みないと思いますが、こちらもよく出てきます。「拙寺」は「開善寺」のことです。「拙寺」は「弊社」などというのと同じでへりくだっていう言葉です。「拙」のつくりの「出」は先ほど出てきた「出」のくずし方と同じです。こういうところが気付けるようになれば、よりくずし字が読めるようになってくると思います。

 そして「檀那」と書いてあります。これは難しいですね。「旦那」と書くこともあります。江戸時代、庶民はどの家もお寺の檀家に入り、キリシタンでないことをお寺に証明してもらう「寺請制度」という制度がありました。お寺は「宗門人別帳」という現在でいう戸籍を作成し、今回のように旅に出る場合などは「往来手形」を発行したり、結婚などで引っ越す場合も「送り一札」などを発行したり、誰かが村を離れる場合はその身分を証明する証文を発行する役目も担っていました。ということを頭に入れて読んでもらうと、より往来手形が読みやすくなるかなと思います。

 少し長くなったので、残り半分は次回のスタッフブログで書きたいと思います。

 お読みいただきありがとうございました。

〈 一覧に戻る