動詞

2024年4月11日

その他

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 前回までのブログでは「候」について解説してきました。今回は、よく出てくる動詞について少し解説します。今回は「申」「有」「仕」「聞」「成」の5つです。

①申
 まず、「申(もうす)」です。これは現在でもよく使いますが、「言う」の謙譲語です。○で囲んだ部分が「申」です。「中」という字に似ていますが、「中」だともっと「中」とはっきり書いてある場合が多いと思います。また文脈的にも「申」で間違いないです。
 「申」はそれ単体だけでなく、様々な単語とつながります。一番よく見かけるのは「申上(もうしあぐ)」かと思います。今回の場合は右から読むと3番目と4番目の「申」は「申上」です。その他にも「申達(もうしたっす)」や「申聞(もうしきける、きかす)」、「申越(もうしこす)」などたくさんあります。

 また、前回「候」をご紹介しましたが、ここでも先ほどの画像の中から「候」を見てみると、①②は「申候間(もうしそうろうあいだ)」、③は「可申上候(もうしあぐべくそうろう)」となっています。何度も同じ漢字や言葉が出てきているとわかるのではないでしょうか。このように頻出の漢字を覚えると結構読めるようになってきます。

②有
 次に「有(あり)」です。意味は「~がある」「~がいる」などです。「有」も特徴的なくずし方です。特に画像左の「有」はわかりにくいかと思いますが、頻出のくずしです。また、「有」は「之(これ)」とあわせて「有之(これあり)…」となることが多いです。つまり「レ点」をつけて下から上に返って読むのです。画像の「有」は2つとも「有之候(これありそうろう)」となっています。読めますでしょうか。

③仕
 続いて「仕(つかまつる)」です。意味は「する」の謙譲語です。現在ではほぼ使わないと思いますが、江戸時代の古文書では頻繁に出てきます。画像の「仕」はあまりくずれていないため、読みやすいのではないでしょうか。「仕」は「する」という意味であることから、様々な漢字や言葉と合わせて出てきます。画像左の「仕」では前後合わせて「入船仕候ニ付(にゅうせんつかまつりそうろうにつき)」と書いてあり、「入船しましたので」といった意味になります。「入船」のかわりに「承知」で「承知仕~(しょうちつかまつり)」など様々な言葉とセットで出てきます。他にも「不」や「可」などの助動詞と組み合わされることが多いです。

④聞
 「聞」です。この漢字は普通に読むと「きく」という読み方になるかと思いますが、江戸時代の古文書では、「きかす」「きこす」など様々な読み方・意味があります。
 まず、くずし方です。画像のようにもんがまえがなくなって、特徴的な形をしています。慣れたらすぐに「聞」とわかるようになるくずし方です。
 そして、読み方です。画像下の方の「聞」は、下の漢字「合」とセットで「聞合(ききあわせ)…」となっています。意味は「問い合わせる」のようになります。この場合の「聞」は「きく」という読み方で、「合」の他にも様々な漢字を組み合わせて出てくることが多いです。例えば、「聞置(ききおく)」で「承知する」、「聞済(ききすむ、ききすます)」で「承知する」といった意味になります。
 他にも「きかす」という読み方の場合もあります。これは「聞かせる」といった意味で、先ほどの「申」と合わせて「申聞(もうしきかす)」と出てくることが多いです。
 このように「聞」は意外と読み方や意味が難しい漢字です。出てきたら注意して読んでみて下さい。

⑤成
 最後に「成」です。「成」は「なす」という読み方の場合、「する」「おこなう」といった意味になり、「なる」という読み方の場合、「達する」などといった意味になります。
 くずし方を見てみると、画像のようになります。左側に突き出しているのが特徴的です。
 「成」という字は「相成(あいなり)…」と「相」とセットで出てくるか、「被」という助動詞と組み合わされて出てくることが多いです。
 まず、画像右の「成」は前後合わせて「相成候ハヽ(あいなりそうらわば)」と書いてあります。意味は「~するならば、したならば」となります。江戸時代の古文書では「相(あい)」はよく出てきますが、意味は特になく、語調を整える漢字です。
 画像左の「成」は前後合わせて「被成下候様(なしくだされそうろうよう)」となります。一二点を入れると「被(二)成下(一)候様」です。意味は「~してくださいますよう」となります。「成下(なしくだす)」は命令を下すという意味ですが「被」がつくことで、「(命じて)くださって」などという意味になります。

 以上、動詞について見てきました。最後の「成」のところで出てきた「被」は助動詞ですが、意味はもちろん、くずし方もくずされすぎて初見ではさっぱりわからないと思います。次のスタッフブログでは「被」などの助動詞について解説したいと思います。

 お読みいただきありがとうございました。

参考文献:佐藤孝之監修、佐藤孝之・宮原一郎・天野清文著『近世史を学ぶための古文書「候文」入門』天野出版工房発行、吉川弘文館発売、2023年

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