助動詞

2024年4月17日

その他

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 前回は動詞について少し解説しましたが、今回は助動詞を解説したいと思います。よく大学受験の古文について、「助動詞を制する者は古文を制する」などといわれますが、これは江戸時代の古文書でも同じことが言えると思います。江戸時代の古文書の助動詞は、読み方と返読文字であることに慣れる必要があります。そして、意味が文脈により色々と変わってくることも、学習のつまずきの一因になっています。今回のブログだけでは、なかなか理解が難しいかと思いますので、気長に勉強してもらえればと思います。今回は「可」「為」「被」の3つを見ていきます。

①可(べし)
 まず、「可(べし)」です。「可」のくずしは、「口」の部分が消える場合がほとんどです。だいたいこのようなくずし方なので、それほど読みにくいということもないかと思います。

 「可」に続いて3文字ありますが、「可致候様」と書いてあります。これは「いたすべくそうろうよう」と読みます。「可致」は下から返って読んでいます。「可」は下から返って読む「返読文字」です。レ点をつけると(横書きでわかりにくいですが)「可(レ)致」となります。

 なぜこのような読み方をするのか、これには活用形と接続がかかわってきます。
 動詞や助動詞などは文章で使われる場所によって形が変わります。これを「活用形」といいます。例えば、動詞の「申す(もうす)」であれば「申さず」「申して」「申す」「申すこと」「申せば」「申せ」と活用されます。これは四段活用といい、活用表は画像のようになります。例えば「申さず」は「~ず」(現代語でいう「ない」)に「接続」するために活用した形です。つまり「~ず」に接続する形は四段活用では「未然形」のみということになります。

 助動詞にも活用形があります。「可(べし)」の場合は次にようになります。だいぶ変則的な活用形です。そして「可(べし)」に動詞などが接続する形は、「終止形」です。(「あり」などのラ行変格活用の場合は連体形)

 もう一度「可致候様」をみてみると、「致(いたす)」は四段活用です。よって「可致」は、「いたすべし」という読み方になります。さらに続いて「候(そうろう)」が来ています。「候」は連用形が接続します。よってここでは「いたすべくそうろう」と読みます。このように助動詞は、接続と助動詞そのものの活用もあるため、結構混乱してしまいます。ただ「可致候」などはよく出てくるため、文法的に考えなくともすっと読めるようになると思います。

 次にこの文章における「可」はどのような意味なのかについて、前後の文章は、「夫々取調へ懸合之節弁金之応対等可致候様、荷主中ゟ(より)被申付候得共」となっています。意味としては「それぞれ取り調べ、掛け合い(交渉)の際、弁償金の応対などするよう、荷主たちより申し付けられましたが」といった意味に私なら訳すかなと思います。この訳における「可」は命令の意味を持っているといえます。

 続いてこちらの場合は「可」の前後は「永々御苦労被為成下千万難有仕合ニ奉存候、早速右御礼可申上筈之処」と書いてあります。こちらは「長い間ご苦労してくだされ、大変ありがたく思っています。早速このことについてお礼を申し上げるべきはずが」といった意味になるかと思います。ここでは「べきだ」という当然の意味で訳しました。

このように同じ「可」でも様々な意味があります。この他にも推量・意志・可能を表します。色々な文章を読んで慣れていくしかないです。

②被(る・らる)
 次に「被(る・らる)」です。受身や尊敬の意味を表します。訳すと「~される」などになります。「被」も活用形が変則的で、画像のようになります。未然形が接続します。

 先ほどの「可」の文章の中にも「被」は出てきました。ここでのくずし方はまだ読みやすい方です。「被申付候得共」の読み方は「もうしつけられそうらえども」です。返り点をつけると「被(二)申付(一)候得共」となります。「申付(もうしつく)」は下二段活用です。活用表は省略しますが未然形から順に「け・け・く・くる・くれ・けよ」となります。「る」に接続するのは四段・ナ行変格活用・ラ行変格活用の活用語(動詞などのこと)、「らる」に接続するのはそれ以外です。そして「候」には連用形が接続します。よって、分解して読んでみると「もうしつけ(下二段活用の未然形)」・「られ(「らる」の連用形)」・「そうらえども」となります。
 意味は、ここでは「申し付けられましたが」と受身の意味で訳しました。

 次の文章は尊敬の意味になるかと思います。「大坂荷主惣代相兼御地辺江取調へニ被参候而」とありますが、「(○○という人は)大坂の荷主総代を兼ねて、そちらへ取り調べに参られて」と訳しました。「被参候而」は「まいられそうらいて(そうろうて)」です。

このように「被」は受身・尊敬の意味があり、「可」の場合と同じく文脈で判断します。

③為
 最後に「為」です。この漢字の難しいところは、助動詞としてだけでなく動詞などでも使う漢字であるところです。動詞の場合は「為す(なす)」で、「成す」と同じような意味で使われます。また、「為(ため)」で「~によって」という意味でも使われます。そして「為(として)」と読む場合もあります。
 助動詞としても「す・さす・しむ・たり」と読み方が色々あります。意味としては「す・さす・しむ」であれば使役・完了・尊敬です。「たり」の場合は断定です。全部解説するのは長くなるため、今回は尊敬の意味で使っている場合を見ていきます。

 まず活用形ですが、次のようになります。そして未然形に接続します。

「為」もすでに出てきていました。くずし方は「の」のようにも見えますが、最後の払いの部分が少しくるんとなっています。このくずしはよく出てきます。

 「永々御苦労被為成下千万難有仕合ニ奉存候」ここでは「被」と組み合わされて「被為成下」となっています。読み方は「なしくだせられ…」です。返り点をうつと「被(レ)為(二)成下(一)」となります。これはこのまま覚えてもらうしかないです。「せ」は「為(す)の未然形」で、「られ」は「被(らる)の連用形」です。「なしくだす」の未然形は「なしくださ(ず)」なので、「なしくださせられ…」と読みそうなところですが、「なしくだせられ」と読みます。覚えてください…。「被為成下」は「被成下(なしくだされ)」の場合よりも尊敬の度合いが強くなります。現代語に訳す場合はその違いを出すのがなかなか難しいと思いますが、尊敬であることがわかればとりあえずはよいかなと思います。
 「為」は尊敬の場合であれば「被」と組み合わせて「被為○○」と出てくる場合が多いです。慣用表現として覚えていただければと思います。「被為仰付」「おおせつけさせられ」などよく出てきます。

以上、助動詞についてでした。難しいですが、徐々に慣れていくしかないかなと思います。

お読みいただきありがとうございました。

参考文献:佐藤孝之監修、佐藤孝之・宮原一郎・天野清文著『近世史を学ぶための古文書「候文」入門』天野出版工房発行、吉川弘文館発売、2023年

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